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バイオアイデンティカルホルモン療法とは

小山嵩夫 更年期と加齢のヘルスケア Vol.9-2 pp52-54 2011

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小山嵩夫

なぜ関心をあつめているか

 ここ4~5年来、米国を中心として合成でない天然、ナチュラルホルモン療法としてバイオアイデンティカルホルモン療法(BHT)が普及しはじめている。わが国ではインターネットによる情報(医療施設のホームページ情報が圧倒的に多い)や女性誌によるものが多い。アメリカで流行の最新の自然ホルモン療法、合成ホルモンではない、自然の形で健康をもどし元気さを保つ、米国の一流のこの領域の専門医と提携した安心な治療などのキャッチフレーズやネーミングが何となく魅力的であるため関心を持ったという人も多い。この現状についてこの領域の専門家が最も多いと考えられる北米(USA、カナダ)閉経学会、米国産婦人科学会、米国内分泌学会などが毎年出しているホルモン療法に関する公式コメントと、この領域を管理する立場にある米国食品薬品管理局(FDA)のコメントを中心として解説を加えてみたい。(1)(2)(3)

バイオアイデンティカルホルモンとは

 まずバイオアイデンティカルホルモンの意味であるが人間の体に自然に存在していて、化学的に構造、作用が解明されているホルモンの意味でバイオアイデンティカルが使用されており、ホルモン自体は特別のものではないし、わざわざ天然を強調するようなものでもない。これらのホルモンを何種類も組合せて、その個人に最もふさわしい組合せと量を決めて、特別に作成したものを服用する仕組みになっている。この組合せに使われるホルモンとして女性ホルモン(エストロゲン;エストロン、エストラディオール、エストリオール)、黄体ホルモン(プロゲステロン)、男性ホルモン(テストステロン)が基本であるが、最近は施設によっては、DHEAやプレグネノロン(副腎由来)、メラトニン(松果体ホルモン)、などを加えることもある。この組合せを決定するものとして、臨床症状のほかに、血中の各種ホルモンのレベル、唾液による諸検査などを行ない、専門家がその人にあった特別の複合体(薬剤)を処方するとしている。

問題点について

 考え方としてはわかりやすく人気を集めているが、臨床に用いる前に困るのはほとんどデータがないことである。各種ホルモンを測定することはわが国でも可能であるが、不足しているからといって単純に不足しているものを補充していくだけでよいものではない。まして各種ホルモンを多く組合せた場合はその相互作用などについて効果、副作用などについてはまったく不明である。比較的データがあるのは女性ホルモン(エストロゲン)、甲状腺ホルモン位でありその他については投与量、長期投与の効果、副作用などは手探り状態である。(4)

米国FDA、学会の見解

米国FDAはホルモン投与量を決めるための唾液検査などは存在しないとコメントしており、バイオアイデンティカルホルモン(BH)を製造している製薬メーカーに、成分とともに、効果と副作用について臨床試験による結果を公表する様に指導をしているが、満足すべき解答は得られていない。2006年に北米閉経学会がBHを中心とした研修会を行なっている。このセミナーを企画したSimon JA教授(George Washington大学産婦人科)はその報告集の中で、WHI報告後ホルモン補充療法(HRT)に代るものを探す動きがあり、このBHは女性の関心を急速に集めつつある。BHの名前は知られてきているが、その内容は不明のことが多く、成分、効果、副作用などについて明らかにし、米国FDAの許可などを得てから臨床的に用いた方がよいのではと述べている。(5)北米閉経学会の初代会長のUtian WH教授は臨床データがないものを臨床に用いることよりも、データが豊富にあるHRTなどを用いることの方が賢明としている。(6)
 北米閉経学会の2010年版のホルモン療法に関する公式見解では2006年のセミナーの頃と状況はほとんど変っておらず、BH製造しているメーカー(及び実施している医師)は成分とともに、その効果と副作用を公表すべきとしている。ほとんど評価に値するデータが存在しない現状では、学会としてはこれまで多くの施設などで実施されているホルモン療法(例、ホルモン補充療法 HRTなど)を推奨するし、それが最も安全でかつ効果的と考えられると結論づけている。(7)

おわりに

 バイオアイデンティカルホルモン(BH)のネーミングが魅力的であったため、人気や普及が先行し、BH療法についての詳細やデータの蓄積や公表などが遅れたために、その現状に米国FDAや諸学会が懸念を表明しているのが実際であろう。
BH療法を行なっているグループは直ちに現状での投与方法、これまでのデータを発表し懸念を払拭することが重要である。BH療法については考え方としては興味深いところもあり、これまでのところネガティブのデータもそれ程出ているわけでもないので、周囲の人たちは今後の展開を慎重に見守ることが最善と思われる。

【文献】

1 FDA Center for Drug Evaluation and Research. Report:Limited FDA Survey of Compounded Drug Products. January 2003.
Available at:
http://www.fda.gov/cder/pharmcomp/survey.htm.
Accessed September 19,2006.
2 No scientific evidence supporting effectiveness or safety of compounded bioidentical hormone therapy[press release].
Washington,DC:American College of Obstetricians and Gynecologists.Available at:
http://www.acog.org/from_home/publications/press_releases/nr10-31-05-1.cfm.
Accessed September 19,2006.
3 The Endocrine Society.Bioidentical Hormones.Position Statement.Available at:
http://www.endo-society.org/publicpolicy/policy/upload/BH_Position_Statement_final_10_25_06_w_Header.pdf.
Accessed September 19,2006.
4 Rosenthal MS.The Wiley Protocol:an analysis of ethical issues.
Menopause 15:1014-1022,2008
5 Simon JA. Introduction of hormone testing and bioidentical hormones.
Proceedings from the Postgraduate Course of the 17th Annual Meeting of the North American Menopause Society pp5-7,2007
6 Utian WH. Bioidentical hormones: separating science from marketing.
  Female Patient 2005; Oct ( suppl ): 23s-24s
7 The North American Menopause Society.Position Statement:Estrogen and progestogen use in postmenopausal women:2010.Menopause 17:242-255,2010

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